日经春秋 20150530

「不在だった医師がついに決まりました！」と島紹介のホームぺージにある。最後のマークから書いた人の躍る気持ちが伝わってくる。今年４月、ある離島の診療所に医師が１人、移住し常駐することになったのだ。インターネットの募集を見たのがきっかけだという。

▼島の名は鹿児島県屋久島町の口永良部島。美しい海がある。温泉がある。観光だけでなく、近年は都会からの移住者を増やすことにも熱心だった。「南海ひょうたん島留学」の名で、小中学生の転入学も毎年数人、受け入れている。島に医師がいてくれれば、迷っている都会の家族の背を押す。島の人の喜びも理解できる。

▼特にここ10年ほどは若者を中心に、仕事をつくり、ネットで情報を発信するなど新しい取り組みに挑んだ。昨年夏に山が噴火した後は、立ち入り禁止になったのは限られた場所だけとの告知に努めた。そうした試みを重ねつつ130人余りが１つの島で支え合い、暮らしていた。そうした中での、きのうの大規模な噴火だ。

▼全島に避難指示が出た。船に乗るまでは、ほんの数時間だ。住み慣れた風景の中で繰り返してきた生活。新しい土地にかける夢。いずれもしばしの中断を強いられた。大地の震えとともに生きるのはこの国に住む者の宿命と分かっていても、何と無慈悲なと思わずにいられない。山の揺らぎが小さく、短いことを祈りたい。